
日本の自動車整備業界では、人手不足が深刻な課題となっています。
一方で、外国人材の中には、母国で自動車整備を専門的に学び、実務経験を持ちながらも、日本語能力や運転免許の問題によって、日本で自動車整備士として働く機会を得られない人がいます。
人材を求める企業と、自動車整備の仕事を希望する外国人材がいるにもかかわらず、なぜ採用につながらないのでしょうか。
今回は、日本の自動車整備業界が抱える人手不足の現状と、外国人材の採用における課題、そして今後の可能性について考えます。
1. 日本の自動車整備業界で深刻化する人手不足
日本の自動車産業は、世界的にも高い技術力を誇っています。しかし、その一方で、自動車の点検・整備・修理を担う人材の確保が難しくなっています。
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」によると、令和7年度(2025年度)の自動車整備士の有効求人倍率は5.46倍となっています。
これは、求職者1人に対して約5.46件の求人があることを示しており、人材確保の難しさがうかがえます。
人手不足の背景には、次のような要因が考えられます。
- 若年層の自動車整備士志望者の減少
- 熟練整備士の高齢化
- 電気自動車(EV)やハイブリッド車の普及に伴う技術の高度化
- 自動車整備に関する専門知識や資格を持つ人材の不足
- 他業種との人材獲得競争
こうした状況の中、自動車整備業界においても、外国人材の活用が選択肢の一つとして注目されています。
2. 自動車整備の知識や経験を持つ外国人材もいる
日本で働くことを希望する外国人の中には、母国で自動車整備について学んできた人材がいます。
例えば、インドネシアなどには、自動車整備を専門的に学べる職業高校や技術教育機関があります。
そうした教育機関を卒業した人の中には、エンジンの点検や修理、オイル交換、ブレーキ整備、部品交換などの基礎知識や実務経験を持つ人もいます。
また、母国で自動車整備の仕事を経験し、さらに技術を高めるために日本で働きたいと考えている人もいます。
しかし、日本で自動車整備の仕事を探す際、必ずしも希望する職場に就職できるとは限りません。
その大きな要因の一つが、日本語能力と普通自動車運転免許の有無です。
3. 日本語能力が採用のハードルになる
自動車整備の仕事では、技術力だけでなく、一定の日本語能力も求められます。
例えば、次のような場面では日本語でのコミュニケーションが必要になります。
- 上司や先輩整備士からの作業指示を理解する
- 整備マニュアルや点検記録を確認する
- 作業内容や不具合について報告する
- 職場での安全確認を行う
- 必要に応じて顧客への説明を行う
特定技能1号「自動車整備」の在留資格では、日本語能力の要件として、原則としてJLPT N4以上またはJFT-Basicの合格などが求められます。
ただし、制度上の日本語要件を満たしていても、企業が求める日本語レベルに達しているとは限りません。
採用する企業によっては、業務上のコミュニケーションを重視し、JLPT N3以上などを希望する場合もあります。
その結果、自動車整備の知識や経験を持っていても、日本語能力が十分ではないという理由で採用につながらないことがあります。
もちろん、自動車整備では安全性が非常に重要であり、作業指示を正確に理解する能力は欠かせません。
一方で、入社後の日本語研修や、整備業務に特化した専門用語の教育など、段階的に日本語能力を向上させる仕組みを設けることも、人材確保の一つの方法ではないでしょうか。
4. 普通自動車運転免許がないことも大きな課題
もう一つの課題が、普通自動車運転免許です。
自動車整備の現場では、車両の移動や整備後の試運転など、実際に自動車を運転する場面があります。
そのため、普通自動車運転免許の保有を採用条件とする企業もあります。
しかし、外国人材の中には、自動車整備に関する知識や実務経験があっても、日本で有効な運転免許を持っていない人がいます。
母国の運転免許を持っていても、日本で運転するためには、免許の種類や取得状況に応じた手続きが必要です。
また、日本で運転免許を新たに取得する場合には、費用や時間、日本語への対応など、さまざまな負担が発生します。
ここで重要なのは、特定技能「自動車整備」の在留資格を取得するために、普通自動車運転免許が一律に必須とされているわけではないという点です。
運転免許は、主に企業の仕事内容や採用方針によって求められるものです。
もちろん、運転を伴う業務には、日本で有効な運転資格が必要です。
しかし、仕事内容によっては、運転を必要としない整備補助的な作業や、段階的に習得できる業務も考えられます。
外国人材の経験や能力に応じて担当業務を検討することが、採用の可能性を広げるきっかけになるかもしれません。
5. 企業の採用条件と外国人材の能力の間にあるギャップ
日本の自動車整備業界では、人材不足に悩む企業がある一方で、整備の仕事を希望しながら就職できない外国人材もいます。
企業側としては、即戦力となる人材を採用したいという事情があります。
特に、限られた人数で運営している整備工場では、日本語教育や運転免許取得の支援に十分な時間を確保できない場合もあるでしょう。
一方、外国人材にとっては、日本語能力や運転免許の問題によって、これまで学んできた専門知識を生かす機会が限られてしまいます。
このような状況は、単に人材が不足しているという問題だけではなく、企業の求める条件と、求職者が持つ能力との間にギャップが存在していることを示しています。
採用条件を満たしていないからといって、必ずしも自動車整備の仕事に適性がないとは限りません。
現在の能力だけでなく、今後の成長可能性も考慮した採用が、人材不足解消への一歩になると考えられます。
6. 外国人材の採用を広げるために企業ができること
外国人材の採用を進めるためには、企業側にも一定の受入れ体制が必要です。
例えば、次のような取り組みが考えられます。
① 日本語能力だけでなく、技術力も評価する
日本語資格だけで判断するのではなく、これまでの学歴や実務経験、技術試験などを通じて、自動車整備の能力を確認することが重要です。
② 業務に必要な日本語教育を支援する
日常会話だけではなく、自動車整備の専門用語や安全管理に関する日本語を学ぶ機会を設けることで、職場への適応が期待できます。
③ 運転免許取得への支援を検討する
運転免許が必要な場合には、取得費用の一部補助や、教習・試験に対応できる勤務調整などの支援が考えられます。
④ 段階的な育成を取り入れる
入社時点ですべての業務を任せるのではなく、本人の技術力や日本語能力に合わせて担当業務を設定し、経験を積みながら業務範囲を広げていく方法もあります。
ただし、いずれの場合も、在留資格で認められた活動範囲や業務上の安全基準を守ることが前提となります。
7. 特定技能制度による自動車整備分野の可能性
日本では、自動車整備分野が特定技能制度の対象となっています。
一定の技能水準と日本語能力を満たした外国人材は、特定技能の在留資格を通じて日本の自動車整備業界で働くことができます。
特定技能1号の自動車整備分野では、原則として、所定の技能試験への合格や認められた自動車整備士資格などによって、必要な技能水準を証明する必要があります。
また、関連する技能実習2号を良好に修了した人などについては、試験免除の対象となる場合があります。
母国で自動車整備を学んだ経験は、日本での仕事を目指すうえで大きな強みとなりますが、それだけで特定技能の要件を満たすわけではありません。
制度の要件を満たすための準備と、採用後の育成体制の両方が重要です。
8. まとめ|人手不足の解消には外国人材の可能性を広げる視点も重要
日本の自動車整備業界では、今後も人材確保が重要な経営課題になると考えられます。
その一方で、母国で自動車整備を学び、日本でもその経験を生かして働きたいと考えている外国人材がいます。
しかし、日本語能力や普通自動車運転免許などの条件が、就職へのハードルとなる場合があります。
安全性や業務上の必要条件を確保することは当然重要ですが、すべての条件を最初から満たす人材だけを求めるのではなく、育成を前提とした採用も一つの選択肢です。
企業が求める条件と外国人材が持つ能力を適切に結びつけることで、これまで採用につながらなかった人材にも新たな可能性が生まれます。
人手不足に悩む企業と、自動車整備の仕事を希望する外国人材。双方の課題を理解し、働く機会を広げていくことが、今後の自動車整備業界における人材確保の鍵となるのではないでしょうか。
参考情報
- 厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)自動車整備士」
- 国土交通省「自動車整備分野における特定技能外国人の受入れ」
- 出入国在留管理庁「特定技能制度」