序章:単なるコストではなく、「技術幹部への投資」として報酬を捉える
自動車整備士不足の解消策として、外国人材の採用は不可欠です。
しかし、将来の技術指導者・管理者を担う特定技能ではなく「技術・人文知識・国際業務(技人国)」ビザでの採用を目指す企業にとって、最大の壁となるのが入管法上の「日本人と同等額以上の報酬」要件です。
ここを誤ると、せっかく内定を出した優秀な人材のビザが不許可となり、これまでの採用活動がすべて水の泡になるだけでなく、企業のコンプライアンス体制まで疑われかねません。 しかし、恐れる必要はありません。この要件は、正しい知識と戦略があれば確実にクリアできます。
本記事では、単なるコスト計算ではない、「技術リーダーへの投資」としての賃金設計を徹底解説します。
核心理解:入管が求める「同等額以上」の定義と目的
1.報酬要件の法的目的:不正な低賃金雇用の排除
この要件の法的核心は、「同一労働同一賃金」の原則に基づき、外国人を日本人よりも不当に低い賃金で雇用する目的を排除することにあります。
・誤解: 最低賃金を上回っていれば良い
・事実: 自社内で、職務内容・責任・経験が同等の日本人社員と比較して、同等かそれ以上の報酬が必要です。
2.「報酬」に算入できるもの・できないものの厳格な線引き
入管審査において「報酬」として認められるのは、「役務の対価」として支払いが確約されているものです。
| 項目 | 算入可否 | 審査のポイント(判断基準) |
|---|---|---|
| 基本給 | ✅ 算入可 | 報酬の根幹。月額基本給は比較対象日本人と同等以上が理想。 |
| 確定賞与(ボーナス) | ✅ 算入可 | 雇用契約書等で年間の支給額または回数が確約されている部分のみ。不確定な業績連動分は含めない。 |
| 役職手当・資格手当 | ✅ 算入可 | 整備主任者手当など、専門的役務の対価として支給されるもの。 |
| 通勤手当・住宅手当 | ❌ 算入不可 | 原則として実費弁償の性格を持つため、報酬には算入できません。 |
| 残業代(超過勤務手当) | ❌ 算入不可 | 毎月変動し、安定した報酬とは見なされないため、算入不可。 |
📌 人事チェック
報酬の月額は、基本給と確定賞与(年額)を12で割った金額で計算されます。通勤費や住宅手当は、いくら高くても報酬比較には使えません。
採用戦略:比較対象となる日本人社員の「選定基準」
報酬の公平性を立証する上で、誰を比較対象とするか(ベンチマーク)が審査の成否を分けます。技人国整備士は「技術指導者」として採用するため、単なる作業員と比較してはなりません。
比較対象として選定すべき日本人社員の要件
1.雇用形態・資格: 正社員であり、技人国整備士が持つ(または持つべき)2級整備士などの資格と同等の資格を有している。
2.職務内容: 技人国整備士が主たる業務とする「高度な故障診断、技術指導、管理・監督業務」に携わっている。
3.経験・責任: 勤続年数や経験年数が近いか、または指導的立場(整備主任者、チームリーダーなど)にある。

貴社の人事台帳の中から、技人国整備士に期待する職務レベルに近い日本人社員を特定し、その賃金台帳を根拠資料として準備することが必須です。
報酬シミュレーション:不許可リスクを回避する給与設計
具体的なシミュレーションを通じて、報酬要件を満たすための戦略的な賃金設計を見ていきましょう。
STEP 1:日本人比較対象者Aさんの審査基準額を算出
| 項目 | 日本人Aさん(リーダー格) | 算入可否 | 報酬年額算定 |
|---|---|---|---|
| 基本給(月額) | 300,000円 | ✅ | 3,600,000円 |
| 役職手当(月額) | 20,000円 | ✅ | 240,000円 |
| 確定賞与(年2回) | 1,200,000円 | ✅ | 1,200,000円 |
| 通勤手当(月額) | 10,000円 | ❌ | 0円 |
| 合計 | 5,040,000円 |
【Aさんの審査基準月額】420,000円 (5,040,000円 ÷ 12)
STEP 2:外国人整備士Bさんの報酬設計と調整
外国人整備士Bさんの月額報酬(審査基準額)は、420,000円以上である必要があります。
| 項目 | 整備士Bさん(初期設定) | 算入可否 | 報酬年額算定 |
|---|---|---|---|
| 基本給(月額) | 315,000円 | ✅ | 3,780,000円 |
| 役職手当(月額) | 20,000円 | ✅ | 240,000円 |
| 確定賞与(年2回) | 1,000,000円 | ✅ | 1,000,000円 |
| 合計 | 5,020,000円 |
【Bさんの審査月額】418,333円
⚠️ このままでは不許可リスク大!わずか1,667円の差が命取りに!
STEP 3:不許可を回避するための戦略的調整
Bさんの基本給を317,000円に調整し、年間の報酬総額を増額します。
| 項目 | 整備士Bさん(調整後) | 算入可否 | 報酬年額算定 |
|---|---|---|---|
| 基本給(月額) | 317,000円 | ✅ | 3,804,000円 |
| 役職手当(月額) | 20,000円 | ✅ | 240,000円 |
| 確定賞与(年2回) | 1,000,000円 | ✅ | 1,000,000円 |
| 合計 | 5,044,000円 |
【Bさんの審査月額】420,333円
✅ 最終結果: 420,333円は420,000円を上回り、要件をクリア。

📌 人事担当者のためのToDoリスト
1.自社の賃金台帳から、比較対象となる日本人社員(指導的立場の2級整備士)を1名ピックアップする。
2.その社員の直近1年間の「基本給」と「確定賞与」の合計額を算出する。
3.その額を12で割り、自社の「審査基準月額」を把握する。
結論:報酬要件は「技術投資」の証明である
技人国ビザの報酬要件をクリアすることは、単なる入管手続きではありません。それは、貴社が「ミャンマーなどから採用する高度な技術を持つ人材を、真の技術リーダーとして日本人と同等以上に処遇する」という経営的な覚悟を、法的に証明する行為です。
💡賃金設計のポイント
・比較対象者の選定を誤らないこと。(経験の浅い作業員ではなく、指導的立場の日本人社員を選ぶ)
・算入できない手当に依存しないこと。(基本給と確定賞与で勝負する)
貴社の持続的な技術力向上は、報酬という形での公正な評価から始まります。弊社では、貴社の既存の賃金規定に基づき、不許可リスクを最小限に抑えるための報酬設計アドバイスと、入管提出用資料の作成サポートを行っております。
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