「日本ではこの程度は普通」という感覚で行った発言や対応が、外国人労働者にとっては深刻なハラスメントとして受け止められることがあります。国籍や出身地、ルーツに関する不用意な言動は「レイシャルハラスメント」として、企業が防止措置を講じるべき対象です。本記事では、外国人労働者が受けやすいハラスメントの具体例と、企業が整えるべき対策を解説します。
レイシャルハラスメントとは
レイシャルハラスメントとは、人種・国籍・民族・出身地などを理由とした差別的な言動によって、相手に不快感や精神的苦痛を与える行為を指します。外国人労働者も日本人労働者と同様に労働関係法令の適用対象であり、外国人であること、特定の国・地域の出身やルーツを持つことについての侮蔑的な言動は、パワーハラスメントに該当します。事業主には、法律にもとづいたハラスメント防止対策を講じる義務があります。
職場で起こりやすい具体的な事例
本人の同意なく国籍・ルーツを開示する
労働者の国籍や人種・民族、ルーツについて、本人の同意なく他の従業員に開示してしまう行為は、プライバシー侵害とハラスメントの両方の側面を持ちます。悪意がなくても、本人にとっては望まない形で情報が広まったと感じられる場合があります。
宗教上の行為を不当に制限する
礼拝の時間や食事の制限(ハラール食など)といった宗教上の実践を、業務上の必要性を超えて過度に制限したり、揶揄したりする行為も、レイシャルハラスメントに該当し得ます。
「無意識の」ハラスメント
明確な悪意がなくても、「日本ではこうするのが当たり前」という前提で相手の文化的背景を軽視した発言をしてしまうケースは少なくありません。本人に自覚がないまま繰り返されることで、被害が深刻化しやすいという特徴があります。
業務指導とハラスメントの境界が曖昧なケース
業績や成果に対する指導であっても、大声で威圧的に叱責するなど、日本人従業員に対しても問題となり得る行為が、言語や文化的背景の違いから外国人従業員にはより強いストレスとして受け止められる場合があります。日本ではハラスメントに当たらないと考えられがちな行為が、外国人労働者には強いパワハラとして感じられることもあるため、指導方法そのものを見直す視点が求められます。
企業が講じるべき防止対策
管理職・現場責任者への研修
ハラスメントの定義や具体例について、管理職・現場のリーダー層を中心に研修を実施することが基本です。特に「無意識のハラスメント」については、悪意の有無にかかわらず相手がどう受け止めるかという視点を共有することが重要です。
社内外の相談窓口の整備
外国人労働者本人だけでなく、一緒に働く日本人労働者からも相談できる窓口を、社内・社外の両方に設けておくことが望まれます。日本語でのコミュニケーションに不安がある従業員のために、母国語や英語での相談対応が可能な窓口を用意できると理想的です。
相談しやすい雰囲気づくり
制度としての窓口を用意するだけでなく、日頃から「相談しても不利益な扱いを受けない」という安心感を伝えることが重要です。相談者への報復やハラスメントの隠蔽が疑われるような対応は、企業への信頼を大きく損ないます。
就業規則・ハラスメント防止方針への明記
国籍・人種・民族などにもとづく差別的言動が禁止対象であることを、就業規則やハラスメント防止方針に明記し、外国人従業員にも周知しておくことで、社内のルールとしての実効性が高まります。
トラブルが発生してしまった場合の対応
ハラスメントの訴えがあった場合は、迅速な事実確認と、当事者双方への丁寧なヒアリングが基本です。言語の壁がある場合は通訳を交えるなど、外国人労働者本人が正確に事情を説明できる環境を整えることが重要です。事実確認の結果、問題が認められた場合は、行為者への指導・処分、再発防止策の実施など、日本人従業員のハラスメント事案と同様の対応を徹底しましょう。
よくある質問
Q. 外国人従業員同士のトラブルもレイシャルハラスメントに該当しますか?
加害者・被害者が日本人か外国人かにかかわらず、国籍・民族・ルーツにもとづく差別的言動があれば、レイシャルハラスメントとして防止措置の対象になります。外国人従業員同士の出身国の違いによるトラブルも例外ではありません。複数の国籍の従業員が同じ職場にいる場合は、特定の国籍同士の対立が持ち込まれないよう、日頃から相互理解を促す機会を設けておくことも有効です。
Q. 冗談のつもりだった発言も問題になりますか?
発言者の意図にかかわらず、受け手がどう感じたかという観点で判断されるのがハラスメントの基本的な考え方です。「冗談のつもりだった」という弁明は、ハラスメントに該当しないことの根拠にはならない点を、研修等で周知しておく必要があります。
Q. 顧客・取引先からのハラスメントにはどう対応すべきですか?
社内の従業員間だけでなく、顧客や取引先からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)についても、企業には従業員を保護する配慮義務があるとされています。外国人従業員が顧客対応でハラスメントを受けた場合の相談・対応フローも、あわせて整備しておくことが望まれます。
多文化な職場づくりを組織の強みに変える
レイシャルハラスメントの防止は、問題を起こさないための「守り」の対策であると同時に、多様な人材が安心して力を発揮できる職場をつくるための「攻め」の投資でもあります。異なる文化的背景を持つ人材が互いを尊重しながら働ける環境は、職場全体の心理的安全性を高め、日本人従業員にとっても働きやすい職場づくりにつながります。ハラスメント対策を単なるリスク管理と捉えるのではなく、組織づくりの一環として前向きに取り組む姿勢が求められます。
まとめ
– 国籍・人種・民族・ルーツに関する侮蔑的な言動はレイシャルハラスメントとしてパワハラに該当する
– 国籍の無断開示、宗教行為の不当な制限、無意識の偏見にもとづく発言などが具体的な事例として挙げられる
– 業務指導とハラスメントの境界が曖昧になりやすいため、指導方法自体の見直しも必要
– 管理職研修、社内外の相談窓口整備、就業規則への明記が基本的な防止対策になる
– トラブル発生時は、通訳を交えた丁寧な事実確認と、日本人従業員と同水準の対応が求められる
参考
– あかるい職場応援団(厚生労働省)「人事担当の方向け情報」https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/
– 移住者と連帯する全国ネットワーク「外国人労働者が遭遇するパワーハラスメント(レイシャルハラスメント)事例」https://migrants.jp/user/media/ijuuren/page/news/pdf/example.pdf
– ONODERA USER RUN「外国人労働者への無意識なハラスメントに注意!起こる理由や事例、対策も解説」https://onodera-user-run.co.jp/useful/6548/
– 厚生労働省「外国人雇用に関する法律」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/index.html