2025年6月に成立した年金制度改正法により、2026年10月から社会保険加入の「106万円の壁」(賃金要件)が撤廃されます。外国人留学生のアルバイトや、扶養の範囲内で働く外国人パート従業員を雇用している企業にとって、この改正は無視できない実務インパクトを持ちます。本記事では制度改正の内容と、外国人労働者を雇用する企業が確認しておくべきポイントを整理します。

「106万円の壁」撤廃とは何が変わるのか

賃金要件の撤廃

これまで社会保険(厚生年金・健康保険)への加入は、週20時間以上勤務・賃金月額8.8万円以上(年収換算約106万円)などの要件を満たす場合に義務付けられてきました。2026年10月からは、このうち賃金要件が撤廃され、週20時間以上勤務していれば賃金水準にかかわらず加入対象となります。

企業規模要件も段階的に撤廃へ

現行制度では、社会保険の加入義務は従業員数51人以上の企業(特定適用事業所)が対象です。この企業規模要件についても、2035年までに段階的に撤廃され、将来的にはすべての事業所が対象になる方向で改正が進んでいます。

外国人労働者に特有の論点

就労時間の制限と社会保険加入要件の両立

国籍にかかわらず、要件を満たす労働者は社会保険の加入対象になるのが原則です。一方で、留学生や家族滞在の在留資格を持つ外国人には、資格外活動許可にもとづく週28時間までの就労時間制限があります。社会保険の加入要件である「週20時間以上」と、在留資格上の就労時間上限を両方管理する必要があり、シフト調整がこれまで以上に重要になります。

二国間社会保障協定の確認

出身国によっては、日本と社会保障協定を締結している場合があります。協定の内容次第では、一定期間の年金保険料の二重負担を回避できる仕組みがあるため、対象国出身の労働者を雇用している場合は、協定の適用可否を確認しておくことをおすすめします。

ビザ・税ID・給与情報の事前確認

外国人労働者を社会保険に新たに加入させる際は、在留資格・在留期限、マイナンバー、給与情報、保険加入履歴などを事前に確認しておく必要があります。初回の給与計算前にこれらの情報が揃っていないと、手続きが後手に回りやすくなります。

企業が今から準備すべきこと

対象となる従業員の洗い出し

現在、賃金要件を理由に社会保険未加入となっている外国人アルバイト・パート従業員をリストアップし、2026年10月時点で新たに加入対象となる人数を把握しておきましょう。

従業員への説明

社会保険料の負担が発生することで、手取り額が減ると感じる従業員も少なくありません。いわゆる「働き控え」を防ぐためにも、加入によるメリット(将来の年金額増加、傷病手当金・出産手当金の対象になることなど)をあわせて説明することが大切です。母国語や、やさしい日本語での説明資料を用意しておくと理解が進みやすくなります。

シフト管理体制の見直し

週の労働時間を基準に加入・非加入が決まる以上、シフトの組み方そのものが社会保険料負担に直結します。特に留学生アルバイトを多く雇用する企業では、資格外活動の時間制限と社会保険の加入基準の両方を踏まえたシフト設計が必要です。

よくある質問

Q. 留学生アルバイトも今回の改正の影響を受けますか?

留学生であっても、資格外活動許可の範囲内(原則週28時間まで)で週20時間以上働いていれば、賃金水準にかかわらず社会保険の加入要件を満たす可能性があります。ただし在留資格上の時間制限を超えて働かせることはできないため、そもそも週20時間以上のシフトを組めるかどうかは別途確認が必要です。

Q. 加入対象になった従業員から相談を受けたら、何を伝えればよいですか?

手取り額が減る一方で、将来受け取れる年金額が増えること、傷病手当金・出産手当金など健康保険の給付対象が広がることを伝えると納得を得やすくなります。数字での説明が難しい場合は、年金事務所や社会保険労務士が用意している説明資料を活用するのも有効です。

中小企業ほど早めの準備が必要な理由

大企業ではすでに企業規模要件を満たし社会保険が適用されているケースが多い一方、これまで51人未満で対象外だった中小企業は、今回の改正で新たに大きな影響を受ける可能性があります。特に外国人アルバイト・パートの比率が高い飲食・小売・宿泊業などでは、対象人数の増加によって社会保険料の会社負担額が想定以上に膨らむこともあり得ます。早い段階で対象人数と負担額を試算し、必要に応じて人員配置やシフト体系そのものを見直しておくことをおすすめします。

定着支援の観点から見た改正の意味

社会保険への加入は、外国人労働者にとって単なる負担増ではなく、日本での生活基盤の安定につながる側面もあります。病気やケガで働けなくなった際の傷病手当金、出産時の出産手当金など、非正規雇用であっても手厚い保障を受けられるようになることは、長く安心して働ける職場としての魅力にもつながります。コスト増としてのみ捉えるのではなく、外国人材の定着施策のひとつとして前向きに位置づけ、従業員への説明に活かす視点も持っておくとよいでしょう。

まとめ

– 2026年10月から社会保険加入の賃金要件(106万円の壁)が撤廃され、週20時間以上勤務なら賃金水準を問わず加入対象になる

– 企業規模要件も2035年までに段階的に撤廃される見通し

– 外国人労働者は在留資格上の就労時間制限と社会保険の加入基準を両方管理する必要がある

– 出身国と日本の社会保障協定の適用可否も確認しておくとよい

– 対象者の洗い出し・従業員への説明・シフト管理の見直しを早めに進めることが望ましい

参考

– マイナビバイト公式メディア ナレビ「2026年10月改正の社会保険適用拡大にあたり、人事・店長が従業員に説明すべきこと」https://nalevi.mynavi.jp/law/legal_system/18256/

– 社会保険労務士法人第一綜合事務所「106万円の壁が撤廃?社会保険適用拡大に伴うパートの労務管理と企業の対策」https://sr-dsg.or.jp/column/hr-labor/1367/

– 厚生労働省「年金制度改正法について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/topics/index.html

– 厚生労働省「外国人雇用に関する法律」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/index.html