「2級整備士の資格を持っている人材だから即戦力になるはず」——外国人整備士の採用を検討する整備工場からよく聞かれる期待です。しかし実際には、資格を持っていても現場でほとんど整備業務を任せられないというケースが少なくありません。本記事では、整備業界の受け入れ企業からよく寄せられる相談内容をもとに、外国人整備士採用でつまずきやすいポイントと、定着率を高める工夫を整理します。※本記事は特定の1社の実名インタビューではなく、複数の受け入れ企業から寄せられる典型的な相談・成功パターンをもとに構成した一般的なケースです。
よくある相談:「2級を持っているのに現場で使えない」
技人国ビザで外国人整備士を採用する企業の多くが直面するのが、母国で日本の2級整備士に相当する資格を取得している人材を採用したにもかかわらず、現場でほとんど整備業務を任せられないという相談です。
なぜこのミスマッチが起きるのか
原因は、資格の有無そのものではなく、実務内容のギャップにあります。国によって主流の車種・使用される診断機器・整備の手順が異なるため、母国での資格取得や実務経験が、日本の現場でそのまま通用するとは限りません。特に、日本車特有の電子制御システムや、国産の診断機器の操作に不慣れな場合、資格上は「整備士」であっても、実際の配属直後は補助的な作業からのスタートにならざるを得ないケースが多くみられます。
「資格=即戦力」という思い込みのリスク
採用担当者がこの点を理解せずに採用を進めると、「資格があるのに仕事ができない」という不満が現場から上がり、外国人材本人も「期待されていた役割を果たせていない」という焦りやストレスを抱えることになります。これは早期離職の典型的な原因のひとつです。採用の段階から、資格の有無だけでなく、実際にどのような車種・作業を経験してきたかを丁寧にヒアリングすることが欠かせません。
初めて外国人整備士を採用する企業へのアドバイス
即戦力採用と育成型採用、2つのアプローチ
外国人整備士の採用には、大きく分けて「即戦力として活躍してもらう採用」と「時間をかけて育てていく採用」の2つのアプローチがあります。どちらも成立し得る方法ですが、社内に受け入れのノウハウが蓄積されているかどうかで、向き不向きが変わってきます。
初めての受け入れでは、経験がゼロの人材は避ける
技人国ビザでの外国人材受け入れが初めての企業には、まったくの未経験者をゼロから育てるよりも、多少なりとも実務経験を持つ人材を選ぶことをおすすめします。受け入れ側の教育体制が確立していない段階で、育成の負担が大きい人材を採用してしまうと、指導する日本人スタッフの負荷が過大になり、現場全体の生産性が落ちてしまうリスクがあるためです。実務経験があれば、たとえ日本車特有の作業に不慣れでも、整備の基本動作や工具の扱い、安全意識などの土台がすでに備わっており、教育コストを抑えながら早期の戦力化を図りやすくなります。
受け入れ体制が整ってから、育成型の採用を検討する
一度受け入れを経験し、指導のノウハウや教育カリキュラムが社内に蓄積された段階であれば、未経験者を一から育てる「育成型」の採用にも取り組みやすくなります。最初の受け入れで無理をせず、段階的に受け入れの幅を広げていくという発想が、長期的には安定した採用につながります。
定着率を左右する「資格取得サポート」
資格を持っていない人材ほど、サポートが定着の鍵になる
日本の整備士資格を持たないまま採用された人材にとって、入社後にどのようなキャリアを描けるかは、定着を左右する重要な要素です。国家資格である日本の自動車整備士資格の取得に向けた学科・実技の学習支援、受験費用の補助といったサポート体制を用意している企業ほど、定着率が高い傾向がみられます。
資格取得を「ゴール」ではなく「通過点」として設計する
資格取得のサポートは、単に試験に合格させることが目的ではありません。資格取得を通じて、本人が「この会社で技術を身につけ、キャリアアップしていける」という将来像を具体的に描けるようにすることが本質的な狙いです。資格取得後の役割拡大や待遇改善までを見据えたキャリアパスとして設計することで、サポートの効果が最大化されます。
資格の有無にかかわらず、OJTは必須と考える
前述のとおり、資格を持っている人材であっても、日本の現場にそのまま適応できるとは限りません。資格取得サポートの有無にかかわらず、配属後一定期間は日本人整備士とのペア作業を基本としたOJTを行い、実際の車種・機器に慣れてもらう期間を設けることが、どの採用パターンにおいても共通して重要なポイントです。
現場の指導担当者への配慮も忘れずに
外国人整備士の育成・資格取得サポートというと、本人への支援ばかりに目が向きがちですが、実際に指導する立場になる日本人整備士への配慮も同じくらい重要です。指導役を任された担当者が、通常業務に加えて教育の負担を一手に背負う形になると、指導する側が疲弊し、教育の質が下がったり、最悪の場合は指導担当者自身の離職につながったりすることもあります。指導を特定の1人に集中させず、複数人でローテーションを組む、指導業務そのものを評価制度に組み込むといった工夫が、教育体制を持続可能にするうえで有効です。
「使えない」で終わらせないための評価の仕組み
配属直後に思うような働きができない外国人整備士に対して、現場から「使えない」という評価が一度定着してしまうと、その後の関係修復が難しくなります。採用時点で、配属からどの程度の期間を「立ち上がり期間」として見込むのか、その間にどこまでできるようになっていれば順調と言えるのかという目安を、現場の管理者ともあらかじめ共有しておくことが望ましいです。期待値のズレを事前にすり合わせておくことで、現場と外国人材双方の不要なストレスを減らせます。
採用前に確認しておきたいチェックリスト
– 候補者が実際にどのような車種・作業を経験してきたか、資格の有無だけでなく具体的にヒアリングしたか
– 自社が「即戦力採用」と「育成型採用」のどちらに向いているか、受け入れ体制を踏まえて判断したか
– 資格を持たない人材を採用する場合、資格取得サポートの内容(学習支援・費用補助)を用意できるか
– 配属直後のOJT期間と、指導担当者の負荷を現実的に見積もっているか
まとめ
– 「資格があるから即戦力」という思い込みは、早期離職につながる典型的な落とし穴
– 初めて外国人整備士を採用する企業は、未経験者よりも多少の実務経験がある人材を選ぶ方がリスクを抑えられる
– 資格取得サポートは、資格を持たない人材の定着率を高める重要な要素になる
– 資格の有無にかかわらず、配属後のOJT期間を設けることがすべての採用パターンに共通して重要
– 受け入れ経験を積みながら、即戦力採用から育成型採用へと段階的に幅を広げていく発想が長期的な安定につながる
参考
– 出入国在留管理庁「技術・人文知識・国際業務」https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/index.html
– 国土交通省「自動車整備士資格制度」https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr10_000015.html
– 厚生労働省「外国人雇用に関する法律」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/index.html