宗教

礼拝やハラール食の提供は、一律の法的義務ではありません。ただし、宗教を理由にした差別的な取扱いは避ける必要があります

– 安全や職場運営に支障のない範囲で、配慮を検討するのが適切です

– 配慮の内容は、個人差が大きいため、「宗教で一括りにせず、本人の希望を聞く」ことが基本です

– 食事は原材料の表示、礼拝は時間と場所、断食期間は勤務と安全の調整が、主な検討点です

– 採用面接で宗教を尋ねることは、就職差別につながるおそれがあるため、避けましょう

外国人材の受け入れが広がると、職場で宗教や食文化への配慮が話題になることが増えます。「どこまで対応すべきか」「他の社員との公平性は」と悩む企業は少なくありません。本記事では、ムスリム(イスラム教徒)の社員への対応を中心に、企業が実務で検討したい配慮のポイントを整理します。

基本の考え方

法的な位置づけ

労働基準法は、国籍や信条を理由にした、賃金や労働時間などの差別的な取扱いを禁止しています。礼拝の場所の提供やハラール食の提供が、すべての企業に義務づけられているわけではありません。しかし、宗教を理由に不利に扱ったり、本人の相談を無視したりすることは、問題になる可能性があります。外国人労働者から相談があったときは、安全や職場の運営に支障のない範囲で、配慮を検討することが適切とされています。

「宗教」で一括りにしない

同じ宗教を信仰していても、実践の度合いは人によって異なります。礼拝の回数、食べられないものの範囲、服装への考え方は、本人によって違います。「この国の人はこうだ」と決めつけず、本人の希望を丁寧に聞くことが、配慮の出発点です。

配慮と公平性のバランス

配慮を行うときは、他の社員との公平性や、業務の必要性とのバランスも大切です。特定の社員だけが得をしているように見えないよう、配慮の目的と内容を、職場に丁寧に説明することが、相互理解につながります。

場面別の配慮の例

| 場面 | 配慮の例 |

| 食事 | 社員食堂や弁当の原材料を表示する、豚肉・アルコールの使用の有無を明示する、ベジタリアン向けの選択肢を用意する |

| 礼拝 | 休憩時間の柔軟な運用、静かに祈れる場所(空き部屋の活用など)、礼拝前に手足を洗える設備の検討 |

| 断食(ラマダン) | 期間中の勤務時間・業務内容の調整、安全に関わる業務の配置の相談、水分補給ができない時間帯の体調への配慮 |

| 服装 | 安全規定の範囲内で、ヒジャブなどの着用を認める方法を検討する |

| 社内行事 | 飲み会や食事会への参加を強制しない、ノンアルコールの飲み物や、食べられる料理を用意する |

| 休暇 | 宗教上の祝祭日に、年次有給休暇を取りやすくする |

すべてに対応する必要はありません。事業所の規模や業務内容に応じて、できるところから取り入れましょう。

食事への配慮

原材料の表示が最優先

食べられないものがある社員にとって、最も困るのは、「何が入っているか分からない」ことです。社員食堂や寮の食事、弁当では、豚肉やアルコール(みりん・料理酒を含む)の使用の有無を、分かりやすく表示するだけでも、大きな助けになります。

本人が自分で選べる環境を

専用のメニューを用意することが難しい場合は、本人が自分で食事を管理できる環境を整えることが現実的です。休憩室に冷蔵庫や電子レンジを置く、持ち込みを認める、近くの店の情報を共有するなどの方法があります。

他の宗教・文化への配慮

イスラム教以外にも、ヒンドゥー教で牛肉を避ける人、ベジタリアンの人、アレルギーのある人など、食事の事情は多様です。表示を充実させることは、すべての人にとって役立ちます。

礼拝への配慮

時間の調整が基本

礼拝の頻度や時間は、人によって異なります。業務時間の中で、休憩時間を活用して、礼拝の時間を確保できるかを、本人と相談しましょう。勤務のシフトや休憩の取り方を、少し柔軟にするだけで、解決できることもあります。

場所の確保

専用の礼拝室を設けるのは、難しい場合も多いでしょう。会議室や空き部屋を、短時間だけ利用できるようにする方法もあります。実際に、社内に祈りのスペースを設けた企業の事例も報じられています。まずは、本人の希望を聞いて、できる範囲から始めてみましょう。

運転や整備など、現場での注意

トラックの運転や整備の現場では、勤務中に礼拝の時間が重なることもあります。運行のスケジュールや、作業の区切りを踏まえて、休憩時間の中で、礼拝を行える体制を、事前に相談しておくと安心です。安全に関わる業務を、勝手に中断してもらうことはできないため、あらかじめルールを共有することが大切です。

断食期間(ラマダン)への配慮

ラマダンは、イスラム暦の9月にあたり、日の出から日没まで、飲食を控える期間です。日程は、毎年変わります。この期間は、体調や集中力に影響が出ることがあります。

– 期間と、本人が断食を行う予定かを、事前に確認する

– 運転、高所作業、重機の操作など、安全に直結する業務は、本人と相談して配置を検討する

– 勤務時間や、休憩の取り方を、可能な範囲で調整する

– 日没後の食事(イフタール)に、配慮した社内行事を検討する

断食を行うかどうかは本人の判断であり、会社が強制したり、制限したりしてはいけません。

採用・面接で気をつけたいこと

面接で宗教を尋ねる場合の注意

宗教や信条は、本人の責任ではない事項、または思想・信条に関わる事項にあたり、選考で尋ねたり、選考の材料にしたりすることは、就職差別につながるおそれがあります。採用の段階では尋ねず、入社後に、本人が希望を伝えやすい仕組みをつくることが適切です。

入社後に希望を伝えやすくする

オリエンテーションや、定期的な面談で、「食事や礼拝、休暇で、困っていることや希望はありますか」と、全員に同じ形で尋ねる機会を設けましょう。特定の宗教の人にだけ聞くのではなく、全員に共通の質問として行うことで、安心して話しやすくなります。

ルールにして、運用する

個別の対応を、ルールとして整理する

その場の対応だけでは、担当者が変わったときに、継続されません。配慮の内容、申し出の方法、安全や業務との調整の考え方を、簡単なルールとしてまとめておきましょう。

職場への説明

配慮の目的を、日本人の社員にも分かるように説明することで、「特別扱い」という誤解を防げます。「お互いに働きやすい職場をつくるための取り組みである」という姿勢を、共有しましょう。

相談窓口を用意する

宗教や文化に関する悩みや、嫌がらせへの相談ができる窓口を用意しておくと、問題が大きくなる前に対応できます。宗教や国籍に関する発言が、ハラスメントにあたる場合もあるため、「外国人労働者へのレイシャルハラスメント」の記事もあわせて参考にしてください。

よくある質問

Q. 礼拝室を必ず作らないといけませんか?

いいえ。法律上の義務ではありません。場所の確保が難しい場合は、時間の調整や、既存の空きスペースの活用など、できる範囲の配慮を、本人と相談しながら検討しましょう。

Q. 他の社員から「不公平だ」と言われたら?

配慮の目的と、業務への影響が小さいことを説明しましょう。誰でも、事情があれば相談できる環境にしておくと、特定の人だけが特別扱いされているという見方を和らげられます。

Q. 配慮を求められたが、安全上できない場合は?

安全や業務に支障が出る場合は、その理由を丁寧に説明し、代わりにできる方法を一緒に考えましょう。一方的に断るのではなく、対話を重ねることが大切です。

まとめ

– 礼拝やハラール食は、一律の義務ではないが、宗教を理由にした差別的な取扱いは避ける

– 配慮は、宗教で一括りにせず、本人の希望を聞いて、できる範囲から行う

– 食事は原材料の表示、礼拝は時間と場所、断食期間は業務と安全の調整が主な検討点

– 採用面接で宗教を尋ねない。入社後に、全員に共通の形で希望を聞く

– 個別の対応をルールとして整理し、職場にも目的を説明する

参考

– 行政書士法人Tree「育成就労における宗教・文化への配慮(ハラール・礼拝・祝祭日)」https://office-tree.jp/blog/immigration/registered-support/ikuseishuro-religious-cultural-care-halal-prayer-holiday/

– 総務省「多文化共生に関する資料」https://www.soumu.go.jp/main_content/000521087.pdf

– 厚生労働省 あかるい職場応援団「人事担当の方向け情報」https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/

– 厚生労働省「外国人雇用に関する法律」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/index.html