EC市場の拡大にともない、物流倉庫の人手不足は年々深刻になっています。こうした状況を受け、政府は2026年1月23日、特定技能制度と育成就労制度の受入れ対象分野に「物流倉庫」を新たに追加する方針を決定しました。これにより物流業界は、ピッキングや仕分けといった倉庫内業務でも外国人材を正面から受け入れられる体制に近づきます。本記事では、新設の背景と企業が押さえておくべき実務ポイントを解説します。
なぜ「物流倉庫」が新設分野に加わったのか
EC市場拡大と保管需要の増加
インターネット通販の拡大により、荷物を一時的に保管し、仕分け・梱包して出荷する物流倉庫の役割は年々大きくなっています。都市部を中心に大型物流施設の新設が相次ぐ一方、現場を支える人材の確保が追いついていないのが実情です。
業界団体調査が示す深刻な人手不足
業界団体の調査によると、就業者数に対する人手不足数の割合は令和6年時点で6.7%に達しています。倉庫内作業は身体的な負荷が大きく、日本人の若年層からの応募が減少傾向にあることも、外国人材受け入れの検討が進んだ理由のひとつです。
特定技能「物流倉庫」分野の概要
対象となる業務区分
物流倉庫分野では、入荷・検品・保管・ピッキング・仕分け・梱包・出荷といった倉庫内作業全般が対象業務として想定されています。フォークリフトなど運搬機器を用いる作業や、在庫管理システムを使う業務も含まれる見込みです。
育成就労制度との連携
物流倉庫は特定技能だけでなく、2027年4月に施行される育成就労制度でも対象分野に含まれる見込みです。育成就労で技能を習得した人材が、そのまま特定技能へ移行して倉庫の即戦力となる流れが想定されており、企業にとっては長期的な人材育成のルートが描きやすくなります。
外国籍ドライバー採用との違いに注意
物流業界ではすでに「自動車運送業」分野で外国籍ドライバーの受け入れが進んでいますが、物流倉庫はこれとは別の分野です。運送(輸送)と倉庫(保管・荷役)は制度上区分されているため、ドライバーとして採用したい場合と倉庫スタッフとして採用したい場合とでは、申請する分野が異なる点に注意してください。運送と倉庫の両方で外国人材を受け入れれば、物流ネットワーク全体を外国人材で支える体制を構築できます。
物流倉庫で外国人を採用する際の実務ポイント
技能評価試験・日本語試験への対応
新設分野であるため、分野ごとの技能評価試験の制度整備は今後進められる段階です。試験実施のスケジュールは出入国在留管理庁や業界団体の発表を随時確認する必要があります。日本語能力についても、他の特定技能分野と同様に一定水準の試験合格または育成就労からの移行が求められる見込みです。
登録支援機関の活用
特定技能1号での採用では、生活支援・定期面談などを行う登録支援機関への委託が原則必要です。倉庫業は多拠点でシフト制勤務になることが多いため、勤務形態に対応できる支援機関を早めに選定しておくことをおすすめします。
多言語での安全教育・受け入れ体制の整備
倉庫内はフォークリフトや自動搬送機など、安全教育が欠かせない現場です。作業手順書や安全マニュアルを多言語化し、ピクトグラムや動画を活用してわかりやすく伝える工夫が、労災防止と早期戦力化の両方につながります。
他分野との比較で見る物流倉庫の位置づけ
| 分野 | 制度上の区分 | 対象業務 | 新設時期 |
| 自動車運送業 | 特定技能・育成就労 | 貨物・旅客の輸送 | 既存分野 |
| 物流倉庫 | 特定技能・育成就労 | 保管・荷役・仕分け | 2026年新設 |
| 製造業 | 特定技能・育成就労 | 工場内の生産工程 | 既存分野 |
このように物流倉庫は、既存の運送・製造分野とは独立した枠組みとして新設されており、倉庫特有の業務内容に即した受け入れ制度が今後整備されていく見通しです。
よくある質問
Q. すでに特定技能で採用している外国人を物流倉庫の業務に配置転換できますか?
在留資格の対象業務に含まれるかどうかによって扱いが異なります。現在の在留資格・分野で認められている業務範囲を超える場合は、追加の手続きが必要になる可能性があるため、事前に専門家へ確認することをおすすめします。
Q. 中小の倉庫事業者でも受け入れ可能ですか?
企業規模による制限は基本的にありません。ただし登録支援機関への委託費用など運用コストがかかるため、複数社で支援機関を共同利用するなどの工夫をしている事業者もあります。
監理支援機関・登録支援機関を選ぶ際のチェックポイント
新設分野である物流倉庫は、支援機関側にとっても対応実績が少ない分野です。委託先を選ぶ際は、単に費用の安さだけで判断せず、次の観点を確認することをおすすめします。
倉庫・物流業界での支援実績
介護や建設分野の支援実績が豊富でも、倉庫特有のシフト制勤務や多拠点勤務への対応経験がなければ、実際のサポート場面でミスマッチが生じることがあります。同業種での支援実績や、対応可能な言語の幅を事前に確認しましょう。
定期面談・相談対応の体制
倉庫業は早朝・深夜のシフトが発生しやすく、標準的な平日日中の面談枠だけでは対応しきれないケースがあります。柔軟な面談スケジュールに対応できるか、緊急時の相談窓口が整っているかも確認ポイントです。
委託費用と対応範囲のバランス
月額委託費用の相場は分野によって差がありますが、安さだけで選ぶと生活支援やトラブル対応が手薄になるリスクがあります。複数の支援機関から見積もりを取り、対応範囲を比較したうえで選定することが望ましいです。
企業が今から準備しておくべきこと
– 自社の業務が「物流倉庫」分野の対象業務に該当するか確認する
– 試験制度・受入れ要件の公式発表を継続的にウォッチする
– 登録支援機関の選定を早めに進める
– 多言語対応の安全教育資料を準備する
まとめ
– 2026年1月、政府は特定技能・育成就労の対象分野に「物流倉庫」の追加を決定した
– 背景には人手不足数の割合6.7%という業界の深刻な状況がある
– 運送(ドライバー)と倉庫は別分野であり、申請区分を混同しないよう注意する
– 育成就労からの移行ルートを見据えた長期的な人材戦略が描ける
– 新設分野のため試験制度など詳細は今後の発表を継続的に確認する必要がある
参考
– 出入国在留管理庁「特定技能制度及び育成就労制度の受入れ対象分野(新たに追加等を行う分野等)の詳細(案)」https://www.moj.go.jp/isa/content/001440967.pdf
– 外国人材新聞「特定技能新3分野の先行者利益|物流倉庫・資源循環・リネン」https://www.gaikokujin-press.com/archives/2964
– 出入国在留管理庁「特定技能制度」https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/tokutei_index.html
– 厚生労働省「外国人雇用に関する法律」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/index.html