雇用

外国人労働者を受け入れる企業が見落としがちなのが、労働災害のリスクです。厚生労働省の統計によると、外国人労働者の労働災害による死傷者数は年々増加傾向にあり、死傷年千人率は全労働者平均よりも高い水準で推移しています。本記事では最新のデータをもとに、外国人労働者の労災リスクが高い背景と、企業が講じるべき安全衛生対策を解説します。

外国人労働者の労災の実態

死傷者数・発生率のデータ

厚生労働省の集計によると、外国人労働者の労働災害による死傷者数は5,672人に上り、死傷年千人率(労働者1,000人あたりの死傷者数)は2.77と、前年から0.13ポイント(4.9%)増加しています。これは、日本人を含むすべての労働者の平均的な千人率よりも高い水準です。

国の目標に組み込まれるほどの課題

こうした状況を受けて、厚生労働省が策定する「第14次労働災害防止計画」では、「外国人労働者の死傷年千人率を2027年までに全体平均以下とする」というアウトカム指標が明記されています。国レベルの重点課題として位置付けられていることからも、外国人労働者の労災防止が業界横断的な課題であることがわかります。

なぜ外国人労働者の労災リスクは高いのか

言語の壁による安全教育の不徹底

安全衛生に関する教育・注意喚起の多くは日本語で行われるのが一般的です。専門用語や現場特有の言い回しが多い安全教育を、外国人労働者が十分に理解できないまま作業に従事してしまうケースが、事故につながる大きな要因のひとつとされています。

危険への感度・経験の違い

母国での就労経験や、危険物・作業機械に対する感覚は、文化や産業構造によって異なります。日本人であれば当然の注意事項として身についている内容も、経験の浅い外国人労働者には初めて接する情報である場合があり、伝え方に工夫が必要です。

短期間での配置転換・多様な現場経験の不足

技能実習・特定技能などで来日して間もない人材は、特定の作業に習熟する前に配置される場合があり、経験不足のまま危険な作業に従事してしまうリスクが相対的に高くなります。

企業が講じるべき安全衛生対策

多言語・視覚的な安全教育の実施

安全教育資料を母国語または「やさしい日本語」に翻訳し、ピクトグラムやイラスト、動画を活用して視覚的に理解しやすい形にすることが効果的です。特に危険箇所や禁止事項は、文章だけでなく色分けや標識で直感的に伝わるよう工夫しましょう。

OJTでの丁寧な同行指導

配属直後は、経験豊富な日本人スタッフとのペア作業を基本とし、危険箇所や作業手順を実際の現場で繰り返し確認する期間を設けることが有効です。特に危険性の高い機械・工具を扱う作業では、単独作業への移行を急がないことが重要です。

定期的な理解度確認

安全教育を実施した後、内容が正しく理解されているかを確認する仕組み(簡単なテストや口頭確認など)を設けることで、「説明したはず」で終わらせない実効性のある教育体制をつくれます。

ヒヤリハット・労災情報の多言語での共有

現場で発生したヒヤリハット事例や、実際の労災事例を多言語で共有し、同じ失敗を繰り返さない仕組みをつくることも重要です。外国人労働者自身が気づいた危険箇所の報告を歓迎する雰囲気づくりも、事故の未然防止につながります。

労災が発生してしまった場合の対応

外国人労働者にも、在留資格の種類にかかわらず労働基準法・労働安全衛生法・労働者災害補償保険法(労災保険)が適用されます。在留資格が就労できないものであった場合でも、労災保険の給付自体は受けられるとされています。万が一労災が発生した場合は、母国語での説明・通訳の手配を含め、日本人労働者と同様に迅速かつ適切に対応する体制を整えておく必要があります。

業種別に見る注意すべきポイント

製造業

プレス機や搬送機など、可動部のある機械を扱う工程が多く、指挟みや巻き込み事故のリスクが高い業種です。作業手順の標準化と、危険箇所への物理的な安全カバーの設置をあわせて行うことが重要です。

建設業

高所作業や重機の使用が多く、重大事故につながりやすい業種です。ヘルメット・安全帯の正しい着用方法や、現場ごとの立入禁止区域について、多言語での掲示と口頭説明を徹底する必要があります。

農業・漁業

天候や自然環境に左右される作業が多く、熱中症や機械操作に関する事故のリスクがあります。季節や作業内容に応じた注意喚起を、その都度タイミングよく行うことが求められます。

定期的な振り返りの仕組みをつくる

安全教育は一度実施して終わりにするのではなく、月次や季節の変わり目などに定期的な振り返りの機会を設けることが効果的です。過去のヒヤリハット事例を題材にした簡単な勉強会を、多言語対応の資料を使って実施するだけでも、現場の安全意識を維持しやすくなります。

安全対策への投資は定着率にも波及する

安全に働ける環境が整っている職場は、外国人労働者にとって「長く働き続けたい」と思える職場かどうかの重要な判断材料になります。労災の発生は、本人の心身への影響はもちろん、周囲の外国人労働者にも「この会社は安全に配慮していない」という不安を広げ、離職や採用への悪影響につながりかねません。安全衛生対策への投資は、コストではなく、定着率や企業イメージを左右する重要な経営課題として位置づける視点が求められます。

労災保険給付の手続きで企業が担う役割

労災が発生した場合、被災した労働者本人が保険給付の請求手続きを行うのが原則ですが、実務上は企業側が請求書の作成補助や必要書類の準備を手伝うケースがほとんどです。外国人労働者の場合、言語の壁から手続きの詳細を理解しづらいことが多いため、通訳や多言語の説明資料を用意し、本人が不利益を被らないよう丁寧にサポートする体制を整えておくことが重要です。

まとめ

– 外国人労働者の死傷年千人率は全労働者平均より高く、国の労働災害防止計画でも重点課題とされている

– 言語の壁、危険への感度の違い、経験不足などが労災リスクを高める要因になっている

– 多言語・視覚的な安全教育、丁寧なOJT、理解度確認の仕組みが有効な対策になる

– ヒヤリハット情報の多言語共有が、事故の未然防止につながる

– 労災保険は在留資格の種類にかかわらず適用されるため、発生時の対応体制も整えておく必要がある

参考

– 厚生労働省「職場のあんぜんサイト:労働災害統計」https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/toukei_index.html

– MEIKOGLOBAL「外国人労働者にも『労災』は適用される?企業が取るべき対応・防止策を解説」https://meikoglobal.jp/magazine/workers-compensation-for-foreign-workers/

– 中央労働災害防止協会「外国人労働者の安全衛生対策等リンク集」https://www.jisha.or.jp/international/

– 厚生労働省「外国人雇用に関する法律」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/index.html